研究員 三浦健一
創価学会三代会長が唱えた信仰に基づく学問論
本論考では創学研究所が探究する創価学会の信仰学に関して、研究員の立場から所見を述べさせていただきます。創学研究所は、創価学会三代会長の確立した信仰に基づく学問論を探究する研究機関です。創価学会の初代会長である牧口常三郎先生は『価値論』を著し、日蓮仏法と西洋哲学、さらに人々の生活を結びつけながら、大善の価値に生きる「大善生活」の重要性を世に問いました。また第二代会長の戸田城聖先生は「仏とは生命なり」と宣言され、日蓮仏法を科学の宇宙論をも包摂する『生命論』として展開したのです。そして、第三代会長の池田大作先生は「一念三千」「色心不二」などの仏法哲理を『人間主義』として表現され、各界の識者との対話などを通じて実践しています。このように、創価学会三代会長はあらゆる学問を生かしながら、創価学会の信仰学を確立しました。そして、創価学会は三代会長が確立した信仰学の土壌に、「平和」「文化」「教育」を核とする多角的な活動を展開して来たのです。
信仰と理性の関係
信仰の土台は「信」です。信仰はまず「信じる」ことから全てが始まります。その反対に、理性の土台は「疑」であると言えるでしょう。ある現象や対象を客観的、分析的に懐疑しながら、自らの仮説を証明し、先行研究の誤りをも指摘する。そして、読者もまたこうした学術的態度で言説を理解しようとします。創学研究所は「信仰と理性の統合」を目的に掲げていますが、一見、信仰と理性は水と油の関係のようにも思えます。しかし、創価学会三代会長は信仰に基づく学問の開花を提唱し、信仰と理性を統合する道を指し示したのです。これは仏教史上、前代未聞の出来事と言えるのではないでしょうか。
しかし、創価学会三代会長による信仰学の構想は、無理解に基づく批判も受けて来ました。宗門からは教義逸脱、学者からは独自の思想がない、などと言われたこともあります。それでも、三代会長が信仰学を確立する戦いをやめることはありませんでした。そして現実に、創価学会は世界192ヵ国・地域に広がり、各国の高等教育機関に「池田思想」「創価思想」の研究所が設立される時代となったのです。世界各国の研究機関は池田先生の哲学者、教育者などの様々な側面に注目し、その思想性を学術的に大変高く評価しています。このような池田先生の多面的な活動の土台には、日蓮仏法への揺るがぬ信仰があります。池田先生は諸機関に向けた講演や提言において、自らが戸田先生の弟子であることや、日蓮仏法の信仰をしていることを前提に、話を展開しているのです。こうした信仰と理性の統合を目指した創価学会三代会長の足跡こそが、創価信仰学の原点ではないかと思います。
内在的論理の普遍言語化
創価信仰学では、これまでの言説からもわかる通り、「日蓮大聖人」「牧口先生」「戸田先生」「池田先生」という敬称を用います。「大聖人」という敬称は、日蓮大聖人が「末法の御本仏」であるという創価学会の信仰の根幹に関わる表現です。また「先生」という敬称についても、創価学会の根本規範である創価学会会憲において、「永遠の師匠」である創価学会三代会長は「先生」という敬称を用いることが定められています。そのため、創価信仰学の立場から、「大聖人」「先生」という敬称を用いています。学術研究においては、「日蓮」「池田」などの敬称を略した表記を用いることが一般的です。しかし、創価信仰学は創価学会の信仰を前提にしています。そのため、信仰の根幹に関わる敬称を用いないならば、逆に信仰学の立場に反することになります。
さらに、創価信仰学では敬称を用いながらも、内容の記述方法については客観的な表現を用います。例えば、「池田先生は~と指摘している」といった表記が考えられます。創価信仰学は、信仰の内在的論理を外部に向けて普遍言語化する試みです。ここで言う「外部」とは、信仰の異なる人々のことですが、広くは現代文明のパラダイムを指すと言ってよいでしょう。創価信仰学は、現代文明のパラダイムに即して仏法哲理を説明しようと試みます。そのため、当然ながら学会員向けの機関紙等とは記述方法が異なってくるのです。
創価信仰学の立場と記述方法について、今後のためにその目的と意図を説明させていただきました。これから50年、100年先の未来には、これまでには考えられなかった技術革新や、それに伴う倫理問題に人類は向き合うことになるでしょう。また、想定外の災害や疫病が発生する可能性もあります。昨今の新型コロナウイルスの世界的流行などは、まさに想定外の出来事と言えるでしょう。こうした不確実な未来を乗り越えていくためにも、確かな哲学が必要です。池田先生は21世紀の後半50年について、「生命の尊厳」の哲学を時代精神、世界精神にすることを展望しています。その実現のためには、創価学会三代会長が唱えた信仰に基づく学問論を創価信仰学の原点と位置づけ、後継の私たちが継承、発展させていかなければなりません。創学研究所の一員として、微力ながらその使命を全うしていきたいと決意しています。
2020/5/19掲載